東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8579号 判決 1969年12月20日
原告 盛岡順一
被告 国
訴訟代理人 野崎悦宏 外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、原告が、その主張のとおり、本件土地を訴外阿部より賃借し、訴外小高が、本件土地上に、訴外海老名名義で本件建物を建築したこと、東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第七、一一五号、同二八年(ワ)第七五五号、同三五年(ワ)第四、二七八号各事件が、原告主張のとおりの控訴、上告を経て確定したこと、右第七、一一五号および第七五五号事件の各控訴を本案とする東京高等裁判所昭和三二年(ワ)第八三四号、同第八三五号各事件を以て、強制執行停止決定が同三二年一〇月九日、あつたこと、右第七、一一五号および同第七五五号各事件、これらの上訴事件、これらの控訴を本案とする強制執行停止決定事件(以下本件各事件という。)において、各裁判所が訴外海老名を本件建物の所有者且つ本件土地の占有者と判断し、同人を本件各事件の被告、控訴人、上告人および申立人として扱い、右第四、二七八号事件およびこれの上訴事件においては、各裁判所が、訴外海老名を本件家屋の所有者でも、本件土地の占有者でもなく、本件各事件においては、名義被冒用者にすぎないと判断したことは当事者間に争いがない。
二、原告は、「本件各事件に於て、訴外小高が同海老名の名義を冒用して応訴しているのを発見しなかつたことについて各裁判官には、職権調査を怠つた過失がある。」
と主張するので、この点について判断する。
東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第七、一一五号事件においては、原告が阿部操、原告補助参加人が盛岡順一(本件原告)、被告が海老名四郎であり、東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第七五五号事件においては、原告が盛岡順一(本件原告)、被告が海老名四郎であり、両事件ともに、被告を海老名四郎と指定し、同人が建物を所有し、土地を不法占拠している旨主張立証したのは右原告らおよび補助参加人であり、これにもとづき、裁判官が、右原告らの主張および証拠を採用して請求を認容したのである。したがつて、原告が、本件訴訟において、右判決には過失があると主張するのであれば、勝訴判決を受けた勝訴者がその勝訴判決に不服を述べることに帰するわけであつて、かかる主張は許されない。また、右第一審の訴訟および強制執行停止決定申請事件において海老名四郎名義で弁護士平岡啓造、所竜霊を訴訟代理人とする適式な委任状が提出され、相手方からその代理権につきなんら異議の申立がなく、また、これにつき疑を生ぜしめるような資料が出されなかつたことは弁論の全趣旨により推認できる。代理権の有無が職権調査事項であることは論をまたないところであるが、適式な訴訟委任状が提出され、これにつき相手方の異議がなく、また、これを疑うべき資料が現われないときは適法な委任状があつたと認めるのほかなく、この点について、右事件の裁判官にはなんらの過失がない。
また、控訴および上告の各申立は小高代八が海老名四郎の名義を冒用してなしたとしても、相手方である被控訴人、被上告人においてこれを指摘することなく、また、かかる冒用の事実を認めるべき資料があつたと認められないから裁判官が海老名四郎の申立であると認めて、手続を進行させたことは相当であり、なんら過失の所為はない。
さらに、前記訴訟において、海老名四郎自身が応訴して、係争建物が自己の所有でなく土地を占有していない旨主張・立証すれば右事件の原告らは敗訴判決を受け、したがつて、建物収去土地明渡の仮執行宣言つきの判決は受けられない筋合であることは、原告の主張に照らして明らかである。かかるときは、海老名四郎は、強制執行停止決定を求め、その保証を立てる必要はなかつたわけである。原告は強制執行停止決定により損害を受けたと主張するが、右のとおり海老名四郎が自身で応訴すれば土地明渡の勝訴判決、したがつて、また、その仮執行の宣言も受けられなかつたのであるから、強制執行停止決定をまつまでもなく執行ができなかつたわけである。
したがつて右停止決定により損害を生じたということはできないはずである。原告の損害の主張は、勝訴判決のあることを前提としているのであつて、右と矛盾し、採用できない。
その他右判決および決定にはなんら過失を認めるべき点はない。
以上のとおりであるから、原告の請求は全く理由がない。
よつて、本訴請求を棄却し、民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺一雄 菅原敏彦 北山元章)
別紙物件目録<省略>